<この記事のポイント>
- 夫婦で葬儀に参列する際は、喪服の「格(ランク)」を二人で揃えることが最も重要なマナーである
- 夫が冠婚葬祭用のブラックスーツ(準礼装)を着る場合、妻も同格のブラックフォーマルを選ぶのが正解
- 服そのものだけでなく「黒の色味」「サイズ感」「小物」の統一感まで意識することで、夫婦としての品格が整う
突然の訃報というものは、悲しみと同時に、どうしても現実的な準備の問題を突きつけてきます。なかでも多くの方が頭を悩ませるのが、「服装」の問題ではないでしょうか。
一人で参列するなら、自分の喪服だけ確認すれば済む話です。けれども夫婦で参列するとなると、事情はもう少し複雑になります。「夫はあの黒いスーツで大丈夫だとして、私は何を着ればいいんだろう」「二人で並んだとき、なんだかチグハグに見えたりしないかな」——そんな不安を抱えたまま当日を迎えた経験がある方、あるいは今まさにその状況にある方も少なくないはずです。
この記事では、夫婦で葬儀に参列する際に押さえておきたい「喪服の格を揃える」という考え方を軸に、具体的にどんな服装を選べばいいのかを詳しくお伝えしていきます。読み終えるころには、当日の朝にクローゼットの前で困ることがなくなるはずです。
葬儀の場で「夫婦の装い」がなぜ注目されるのか
葬儀やお通夜では、受付から焼香、精進落としの席まで、夫婦は基本的に「二人一組」として見られます。これは自然なことで、会場にいる方々は意識的に見ているわけではないのですが、人間の目というのは不思議なもので、「二人並んだときの違和感」には敏感に反応してしまうものです。
たとえば、夫が漆黒の礼服をきっちり着こなしているのに、隣にいる妻のワンピースがどこか素材感の軽いものだったとします。逆に、妻が格式の高い和装で参列しているのに、夫がビジネス用の黒いスーツだったとします。どちらのケースでも、見ている側はなんとなく「あれ?」と思ってしまいます。それが悪意のある視線かといえばそうではなくて、人はただ「調和が崩れたもの」に反応してしまうだけなのです。
葬儀の場で最も大切なのは、もちろん故人を偲ぶ気持ちです。それは大前提として、その気持ちをきちんと外見にも反映させること——つまり、遺族や他の参列者への敬意を形で示すこと——もまた、大人のマナーの一部です。そしてそのマナーは、夫婦でいる場合、「個人」ではなく「ペア」で評価されるという点を知っておいてほしいのです。
喪服には「格(ランク)」がある——まずはここを押さえよう
「喪服」と一口に言っても、実はランクが存在します。この概念を知らないままだと、服装選びの判断基準が持てません。少し面倒に感じるかもしれませんが、ここを理解しておくだけで失敗の確率が大幅に下がるので、ぜひ目を通してください。
喪服の格は、大きく分けて「正礼装」「準礼装」「略礼装」の3つに分類されます。
| 格(ランク) | 男性の例 | 女性の例 | 主な着用シーン |
|---|---|---|---|
| 正礼装 | モーニングコート、黒紋付袴 | ブラックフォーマルドレス(アフタヌーンドレス)、黒紋付(五つ紋)の和装 | 喪主・近親者が葬儀・告別式で着用 |
| 準礼装 | 冠婚葬祭用ブラックスーツ(光沢のない漆黒) | ブラックフォーマル(アンサンブル、ワンピース、スーツ) | 一般の参列者から親族まで幅広く対応 |
| 略礼装 | 濃紺やダークグレーのビジネススーツ | 黒・紺・グレーなどの地味な色のワンピースやスーツ | 急なお通夜、三回忌以降の法事、「平服で」と案内があった場合 |
一般的に「喪服を着てきてください」と言われた場合に想定されるのは、真ん中の「準礼装」です。多くの方がイメージする「ちゃんとした黒い礼服」がこれにあたります。
正礼装は喪主や近親者のためのものなので、一般の参列者がこれを着てしまうと、逆にマナー違反になりかねません。「格式が高ければ高いほど良い」というわけではない点は、意外と見落とされがちなところです。
夫が「ブラックスーツ」の場合、妻はどう合わせるのが正解か
さて、ここからが本題です。
世の中の多くの男性は、冠婚葬祭用のブラックスーツを一着は持っています。これは上の表でいう「準礼装」にあたるもので、光沢を抑えた漆黒の生地で仕立てられた、葬儀の定番とも言える服装です。日常会話のなかでは「略礼服」「礼服」などとざっくり呼ばれることも多いのですが、正式な分類としては準礼装です。
妻も「準礼装(ブラックフォーマル)」で揃えるのが鉄板
結論から言えば、夫が冠婚葬祭用のブラックスーツを着るのであれば、妻もそれと同じ格である「ブラックフォーマル」を着用するのが最も確実で、最も美しいバランスになります。ブラックフォーマルとは、喪服として売られているアンサンブル(ジャケット+ワンピースのセット)やワンピースのことで、いわゆる「ちゃんとした喪服」と言えばこれです。
ここで一つ、よくある間違いについて触れておきます。「黒い服であれば問題ないだろう」と考えて、仕事で着ているビジネス用の黒いスーツやリクルートスーツで参列してしまうケースです。これらは分類上「略礼装」にあたり、準礼装より一段格が下がります。夫がしっかりとした礼服を着ている隣に、妻がビジネススーツで立つと、どうしても「格の差」が出てしまうのです。
特に厄介なのは、ビジネス用の黒と礼服の黒では、染めの深さが全く違うという点です。日常ではあまり意識しませんが、二つを並べてみると、礼服の漆黒に対してビジネススーツの黒は「ちょっとグレーがかって見える」ことが少なくありません。屋外やよく照明の効いた斎場では、この差がはっきり出てしまいます。
選ぶときに意識したい3つのこと
ブラックフォーマルを選ぶ際、夫との調和を意識するうえで押さえておきたいポイントがあります。
まず、肌の露出を控えること。スカート丈は膝が隠れる長さ、袖は長袖か少なくとも肘が隠れる程度の長さが基本です。夏場であっても、薄手のボレロやジャケットを合わせるか、五分袖以上のデザインを選ぶほうが安心です。夫がきっちりとジャケットを着ているのに、妻だけ露出が多い装いでは、やはり釣り合いがとれません。
次に、素材の質感です。夫の礼服がウール系のしっかりした素材であれば、妻の服もそれに見合った質感のものを選びたいところです。ポリエステルでも品質の高いものはたくさんありますが、薄くてペラペラした生地だと、並んだときにどうしても差が目立ちます。
最後に、デザインの時代感です。夫の礼服は基本的にオーソドックスで流行に左右されないデザインですから、妻の服も過度な装飾のないシンプルなものが好相性です。フリルやリボンが主張しすぎるものや、モード寄りの個性的なシルエットは、隣に立つ夫の堅実な装いと温度差が出やすくなります。
筆者の経験談——「なんだかバランスが悪い夫婦」を見て気づいたこと
ここからは少し個人的な話をさせてください。
数年前、親戚の葬儀に夫婦で参列したときのことです。私たちはそれぞれ手持ちの喪服を着て出かけたのですが、会場について夫と並んで鏡に映った自分たちの姿を見て、「あれ……?」と思ったのを覚えています。
夫の礼服は数年前にデパートで買ったもので、深い黒色のしっかりした生地。一方、私が着ていたのは社会人になりたてのころに慌てて買った安価なブラックフォーマルでした。当時はそれで十分だったのですが、年月が経って生地がどことなくくたびれていて、夫の服と並べると黒の深さが明らかに違ったのです。
それだけでなく、体型も変わっていたので、ウエストまわりに無理が出ていました。正直なところ、式の間じゅう、お腹まわりが気になって気持ちが散漫になってしまった記憶があります。せっかく故人を偲ぶ大切な場なのに、「服のことが頭から離れない」というのは、自分でも情けなかったですし、故人に対しても申し訳ない気持ちになりました。
あの経験があったからこそ、夫婦で参列する場面では「事前に二人で服を確認し合う時間」を持つことの大切さを痛感しましたし、今回のような記事を書くに至ったわけです。実際、あのあと私は喪服を買い替えましたが、最近ではレンタルという選択肢もあると知り、「先にこれを知っていれば……」と思ったのも正直なところです。
見落としがちな「3つの落とし穴」——服の外にある失敗原因
夫婦でブラックフォーマルを揃えたとしても、それだけで万全とは限りません。実は、服そのもの以外の部分でバランスが崩れてしまうケースが意外と多いのです。
黒の「色味」のズレ
先ほども少し触れましたが、これが最も多い落とし穴です。喪服の黒は「漆黒」と呼ばれるほど深く染められていますが、購入時期、価格帯、経年劣化の度合いによって、その濃さには差が出ます。夫が最近購入した深い黒の礼服と、妻が何年も前に買って日焼けや劣化でわずかに退色した礼服が並ぶと、その差は太陽光の下でかなり目立ちます。特に「黒」という色は、濃淡の違いが他の色以上にはっきり見えてしまうという特性があるので注意が必要です。
サイズ感と経年劣化
「クローゼットに喪服がある」という事実だけで安心してしまい、当日まで袖を通さない方は少なくありません。しかし、5年、10年と時間が経てば体型は変わります。きつすぎる服を無理に着れば生地にシワが寄りますし、逆にゆるすぎればだらしない印象を与えます。夫だけが体にフィットした服で、妻のほうがサイズの合わない服を着ている——あるいはその逆——という状態は、二人で並んだときに想像以上に目につきます。
デザインの古さも同様です。肩パッドがしっかり入った90年代風のシルエットと、今どきのすっきりしたシルエットが横に並ぶと、「時代感のズレ」が一目瞭然になってしまうことがあります。
小物の格差
服装が完璧でも、バッグや靴、アクセサリーといった小物で差がついてしまうことがあります。妻のバッグは布製のフォーマルバッグが基本で、金具が目立つものやブランドロゴが前面に出た革バッグは避けるべきです。真珠のネックレスを着ける場合は一連のものが基本とされています。「重なる」を連想させる二連以上は弔事にふさわしくないとされるためです。
夫が光沢を控えたシンプルな装いでまとめているのに、妻のアクセサリーだけがキラキラと光っている——こういった「小物の温度差」も、意識しておきたいポイントです。
季節による注意点——夏と冬でバランスの取り方は変わる
葬儀は季節を選びません。真夏の猛暑のなかで参列することもあれば、凍えるような冬の日に外の焼香台で手を合わせることもあります。季節ごとに気をつけるべきポイントを整理しておきましょう。
| 季節 | 夫側の注意点 | 妻側の注意点 | 夫婦共通で意識すること |
|---|---|---|---|
| 春・秋 | 基本の礼服スタイルで問題なし | 基本のブラックフォーマルで問題なし | この時期は最もバランスが取りやすい |
| 夏 | 暑くてもジャケットを着用するのが原則 | 透け感のある素材や露出の多いデザインを避ける。薄手のジャケットやボレロを活用 | 「暑さ対策のレベル」を揃える。夫だけ上着ありで妻がノースリーブは避けたい |
| 冬 | コートは黒無地のフォーマルなもの(ウール・カシミアなど) | 同じく黒無地のフォーマルなコートを用意。カジュアルなダウンやベージュのコートはNG | コートも「格」を揃えるという意識を持つ |
冬場に関して補足すると、会場に入る前にコートを脱ぐのがマナーではありますが、焼香が屋外テントで行われるようなケースではコートを着たまま参列する場面もあります。その際、夫はダーク系のウールコートなのに妻だけカジュアルなアウターを着ている、という状況はやはり避けたいところです。「コートまでは気が回らなかった」というのは非常にありがちな失敗なので、出かける前に二人で上着まで含めてチェックし合うことをおすすめします。
「買い替える余裕がない」ときの現実的な解決策
ここまで読んで、「理想はわかったけれど、現実的には難しい」と感じている方もいるかもしれません。正直なところ、夫婦二人分の喪服を質の良いもので揃えようとすれば、10万円前後の出費は覚悟しなければなりません。それに加えて、数年に一度しか着ない服を保管する手間——クリーニング代、防虫剤、カビ対策——も地味に負担です。
さらに厄介なのは、次に着るのがいつになるかわからないという点です。数年後に着ようとしたら体型が変わっていてサイズが合わない、というのはよくある話で、そうなるとまた買い替えの出費が発生します。
こうした問題に対して、近年選択肢として注目されているのが「喪服のレンタルサービス」です。特に夫婦での利用には、購入にはないメリットがいくつかあります。
まず、同じショップで同ランクの喪服を二人分借りれば、最大の懸念である「黒の色味のズレ」がほぼ確実に解消されます。レンタルショップ側も夫婦セットでの利用を想定したプランを用意していることが多く、プロの視点でバランスを整えた組み合わせが提案されるわけです。
次に、「今の体型に合ったサイズ」が届くという安心感があります。身長や体重などを入力するだけで適切なサイズが選ばれるため、「ファスナーが上がらない」という当日朝の悲劇を回避できます。デザインも最新のものが用意されているので、古さを感じさせる心配がありません。
そして、多くのレンタルサービスでは数珠やふくさ、バッグ、ネックレスといった小物もセットになっています。「夫の数珠がどこにいったかわからない」「黒いストッキングの買い置きがなかった」といった直前のバタバタから解放されるのは、精神的にも非常に大きいです。
費用の面でも、夫婦二人分で1万円台からという価格設定は、購入と比較すれば圧倒的にリーズナブルです。保管の手間もゼロですし、体型が変わっても次回はそのときのサイズで借りればいいだけです。冠婚葬祭の服にそこまでお金をかけられないけれど、だからといってマナーには手を抜きたくない——そんな方にとっては、非常に合理的な選択肢だと思います。
よくある質問(FAQ)
夫婦で喪服の「格」が違うと、実際にどのくらい目立つもの?
正直に言えば、かなり目立ちます。特に「黒の濃淡」の違いは、本人たちが思っている以上に周囲からわかりやすいものです。葬儀の場は全員が黒い服を着ているため、逆にその微妙な差異が浮き彫りになりやすい環境です。二人並んで焼香する場面を想像していただければ、多くの方がその差に気づくのも自然なことだとおわかりいただけると思います。
夫が「略礼装(ダークスーツ)」で行く場合、妻はどうすれば?
夫が略礼装であれば、妻も略礼装で合わせるのが基本です。具体的には、黒や濃紺、ダークグレーなどの地味な色合いのワンピースやスーツが適しています。この場合も「格を揃える」という原則は変わりません。妻だけが準礼装のしっかりしたブラックフォーマルを着ると、今度は妻のほうが格上になってしまい、やはりバランスが崩れます。
「平服でお越しください」と言われたら、何を着ていけばいい?
「平服」は「普段着」という意味ではありません。この場合の平服は「略礼装」を指しています。男性なら濃いめの色のスーツにダークなネクタイ、女性なら地味な色合いのワンピースやスーツが適切です。間違ってもジーンズやカジュアルな服装で行ってはいけません。夫婦で参列するなら、二人で「略礼装」のトーンを合わせて出かけましょう。
真珠のネックレスは絶対に必要?
厳密なマナーとしては、必須ではありません。ただし、準礼装以上で参列する場合、女性の装いとして一連の真珠のネックレスはほぼ定番となっています。つけるのであれば「一連のもの」を選ぶのがルールです。二連以上は「不幸が重なる」を連想させるため、弔事の場にはふさわしくないとされています。
急な訃報で準備の時間がないとき、最低限やるべきことは?
まず、夫婦で手持ちの喪服を実際に着てみることです。サイズが合うか、黒の色味に極端な差がないかを確認します。もし問題があれば、即日発送に対応しているレンタルサービスを利用するのが最も手っ取り早い解決策です。16時までの注文で翌日午前着に対応しているショップもあるので、時間がないときほどプロの力を借りるのが賢明です。
まとめ——服装の不安を手放して、心からの追悼を
夫婦で葬儀に参列するということは、二人で一つの敬意を形にするということです。服装の「格」を揃え、黒の色味やサイズ感、小物までトータルで調和を意識する——それは決して見栄や体裁のためではなく、故人と遺族への誠意の表し方の一つです。
クローゼットの喪服に不安を感じたら、まずは夫婦で一度袖を通してみてください。鏡の前に二人で並んでみて、違和感がなければそのまま安心して当日を迎えられます。もし「色が合わないかも」「サイズが怪しい」「なんだか古びて見える」と感じたなら、無理に手持ちの服でやり過ごそうとするよりも、レンタルという選択肢を検討してみてください。
服装の不安がなくなれば、その分だけ心を故人に向けることができます。装いの準備とは、つまるところ、心の準備でもあるのだと思います。

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